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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(あ)762号 決定 1966年6月10日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大槻竜馬の上告趣意第一点は、商標法三七条二号は憲法二九条に違反して無効である旨主張するが、原審が是認した一審判決は、商標法の右条項を適用していないのであるから、所論は、その前提を欠き、上告適法の理由とならない。

同第二点は、単なる法令違反、同第三点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない(記録によれば、被告人らが、本件登録商標を表示したラベル貼付の空瓶に詰めかえた和製洋酒は、いずれも各商標権者が指定商品として登録した商品と同一の商品であると認められる〔一審判決別表2の犯行については、商標権者は指定商品を「コニャック」として登録しているが、その実質は商標法施行規則別表第二八類酒類の二の洋酒のうち「ブランデー」を指すものと解すべきである〕から、被告人らの行為は、指定商品に登録商標を使用したものとして、商標法七八条の商標権を侵害する行為に当るものというべきであり、これを、指定商品に類似する商品に登録商標を使用したものと見て、同法三七条一号を適用して、侵害とみなされる行為であるとした一審判決およびこれを是認した原判決には事実誤認および法令の違反がある。しかしながら、被告人は結局同法七八条によって処罰されているのであるから、右あやまりは判決に影響を及ぼさないものというべきである。また、一審判決の認定が右の如くあやまっている以上、訴因罰条の変更手続を経ないで判決したことが違法であるとの主張も、この前提を欠くに帰するものというべきである)。

同第四点は、判例違反を主張するが、引用の判例は本件と事案を異にして適切でないから、所論は前提を欠き、上告適法の理由とならない(商標法違反の犯行が、本件のように継続して行なわれた場合には、各登録商標一個につき包括的に一個の犯罪が成立し、本件一審判決別表1、4、5、7の犯行のように被告人が詰めかえた瓶一本につき二個の登録商標が貼付されていたような場合には、更に刑法五四条一項前段の観念的競合の関係になると解するのが相当である。そうすると、本件は合計一〇個の犯罪として処断されるべきものであって、各登録権者ごとに一個の犯罪が成立するものと解し、合計一六個の犯罪の成立を認め、刑法四八条二項によりその罰金の合算額の範囲内で被告人を処断した一審判決およびこれを是認した原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があると認められるが、合計一〇個の犯罪としても、商標法七八条所定の罰金の合算額は五〇〇万円に及ぶのであり、被告人はその範囲内である罰金三〇〇万円に処せられているのであるから、右あやまりはいまだ原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない)。

同第五点は、量刑不当、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。

よって、同四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柏原語六 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎)

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